この小説は、『告白~よみがえれ魂~』に掲載している傑作短編小説です。
今回、全ページ掲載いたします。
目の前に、占い界の重鎮、女占い師がいた。
その圧倒的な存在感。私は極度の緊張と真っ白になった頭で記憶が飛んだ。父に言われた質問が、『占い師として大成しますか?』、当時、若干20歳。占い歴は、0年、確かに勉強歴は5年あるが、街頭に立ったことさえない。
父に言われたとおりに質問しただけです。
「あんた私を馬鹿にしているの」その後は、まったく覚えていません。父を恨みました。
いずれにせよ、この衝撃は私の占い人生に生半可なことでは大成しない、占いとは人生そのもの。最終的には人間力が問われると痛感しました。
ただ当たればいいというレベルではダメ、その人間の度量、器、相談者とどれだけ向き合えるか、そして、そのこころの内面(深層)にどれだけ入り込めるか。会った瞬間、そして、それから数分以内にどれだけ相手の心を開かせ『こころ』を読むことができるか、それが「俺流」の『霊感占い』です。
父は偉大な西洋占星術師です。ホロスコープが命。頑固な占い師です。今はやりの「癒し系占い」とは程遠い「辛辣系」です。だから人気はありません、時流には乗れません、若い女性はあまり来ません。インターネットは大嫌いです。曰く、自分は本物の正統派、真の占い師だと。悪く言うなら時代遅れです。しかし、同じ西洋占星術では私がどれだけ勉強、努力しても父を超えることはできません。父の厳命『俺の後を継いでくれ』、その呪縛から逃れんがため、反発心、まったく違うことをする。父のアドバイスが全く通用しない分野「俺流で行く」よりないと思いました。現在私は35歳です。老兵は去り世代交代若き女占い師が急増しております。理由は、男と女。愛憎、不倫、略奪愛。自己中の愛、エゴ、まさにゆがんだ苦悩する現代社会の愛、『恋愛相談』が圧倒的に多いからです。しかも女性に大人気のタロット各種カード占い、四柱推命、算命学、気学、風水、九星、手相、人相、方位、易、トランプ、数秘術、そして姓名判断。何でもありです。新しい分野(スピリチュアル・セラピー・ヒーリング・レイキ・インナーチャイルド等)もどんどん増えています。昔懐かしい八卦占い(ぜい竹をガシャガシャする)はまったく見かけません。
この業界ははっきり言ってなんでもありです。資格なしでOKです。大きな度胸と厚かましささえあれば、我流で学んで、1年後にはりっぱな自称「占い師」が誕生です。路上で怖いお兄ちゃんに、「うちのシャバで、何やってんだよ」と、いちゃもんをつけられなければ、どこでも立つことができます。
設備投資はいりません。でもあまり稼げません。ひとりでは大変です。今「占いの館」が大ブームです。行列ができる占い師が、自動的によく当たる占い師ということになります。全国にはたくさんの占い師がおります。しかし、魂が揺さぶれるような震撼させるような『本物』はごくわずかです。
お世話になった山下編集長が交代ですって、どういうことですか。大ショックです。
理由は何ですか?
月刊「ミラクル」は、初代、山下編集長が世に問う、本格的月刊「占い誌」です。売りは、ある人の人生相談を3人のジャンルの違う人気占い師が占う「今月の真実」そして、前人未到、業界初、『占い師を占い師が占う』最も危険なる企画。ある超能力者が「本物の占い師を求めて巡礼の旅にでる」そして、その実力をAからEまでのランキングで表わす。ズバリ、「神谷霊子の霊力巡礼の旅」です。
はっきり言って、とんでもない企画です。個人情報が厳しく、誹謗中傷が蔓延し、名誉棄損で訴えられるのがこの業界の常です。中小零細出版社は一発で倒産です。
それなのに、占い師を占うだって、危険すぎます!
その危険を世間知らずにも請け負った人。
それが、私、『神谷霊子』です。霊子と書いて「れいじ」と読みます。男です。編集長がかってにつけた芸名です。まだまだ若造の35歳、占い業界ではまったくの無名。有名なのは「星占い」の重鎮、革命的先駆者、父です。「神谷聖治」です。
ただし、編集長が私を指名したのには理由があります。4年前大学OBの心理学ゼミの二次会で隣席となり初対面の山下さんと名刺交換、なんと肩書が「月刊誌ミラクル編集長」私は「霊感占い師 神谷光一」いっぺんで意気投合。そしてお酒のせいで大ぼらを切りました、「僕の実力は父を超えています」と。
待ち合わせの場所は、東京駅丸の内パレスホテル東京の6F、ラウンジバー「プリ ヴェ」お気に入りの場所です。窓からは皇居が見え、東京タワーも見えます。6Fですが、高層階から見下ろすような別世界の雰囲気。『都心でありながら美しい緑と水に恵まれたホテル』のコンセプト、キャッチフレーズの通りです。私は、自由業のきままな占い師、もう1時間前から瞑想をしながら、プレージュの赤ワインを飲んでます。
実は、ここは山下編集長の行きつけの場所であります、4年前、彼と初めて出会った場所。
「どう、ここいいでしょ」
「いいですね、落ちつきますね」
一発で気に入りました。仕事でも時々ここを使っていました。トラブル、悩みごと、何でもここで腹を割って話せる不思議な空間です。待ち合わせの10分前に編集長が現れました。
早く来た方が勝手に、飲んでいていいという暗黙のルール。
気さくで温厚、申し分ない編集長でした。私の霊感でもAレベルの人。まあ、実際のところは、はっきり言ってズバリ相性がいいということです。偽りのない自分をだせる、年齢を超えて気さくに話せる大先輩として尊敬できる。
そして、ほぼPM7時、ついに待ち人、今回のメインの人が現れました。
「彼女が、九条さんです」
ええ、・・・
目の前に現れた人は、・・・啞然(あぜん)という言葉がピッタリ。
(聞いてないよ!)
(新、編集長って、女性なの?)
(しかも、若い!)
一瞬、山下さんに目配せして(話が違うでしょ、そうならそうと前もって言ってよ、会えばわかるよじゃないでしょ。・・・ハメられました、こちらも、心の準備というものがある)
「神谷です、よろしくお願いします」
「九条です」
名刺には、編集長、九条英子とありました。
えっ、この女(ひと)いくつなの、同じぐらいに見える。即、聞きたいのは年齢だ!
やくざの親分、特捜の検事、悪徳不動産、その、次の、次の、次あたりが、編集長だ。ほめ過ぎか悪口かは微妙だが、50歳以上のいろいろな人生の苦難を乗り超え、苦闘のしわが刻まれた、一見怖い顔をした「辣腕」編集長が私のこころの中の最大イメージです。
ああ、それなのに、ここにいるのはごく普通の主婦、いや、主婦じゃないです。OLですね。人生経験はあまりなさそうです。年齢も私とたいして変わらなく見える。
何かの間違いでしょと思いました。
◇ ◇ ◇
ここで、重大なお知らせがあります。私は日常生活ではごく平凡な35歳の男です。
はっきり言ってまだまだ未熟者です。人生経験と言っても、生死を懸けた困難を克服したとか、大失恋をして自殺をしたいと思ったが思いとどまり、乗り越えましたとか、・・・全然ありません。今のところ人生順調です、大きな苦労をしたこともありません。
『霊感がある』と言っても、毎日毎日ピリピリと霊感を駆使して生活しているわけではありません。人に会った時もそうです、みなさんと全く同じです。いい感じな人だなとか、わあ~感じわる~とか。一応その程度です。
基本的には、霊力を使うのは「霊感で占う」時だけといってもいいかもしれません。
というと、なんだ、ただの人だと思うかもしれません。
とんでもありません。
まず、私の10m以内に入ると、私の最高感度の霊的なセンサーが、かってに自動的に作動します。根っからの凶悪犯、殺人者、激しい憎悪、怨念、怒り。前方から横から斜めたとえ後ろからでも、感知した私はその恐怖に足早にその場を立ち去ります、あるいは大きく右へ左へ曲がります。また山の手線で電車に乗り席が空いているのを見つけて、そこを目指そうと、まさにその瞬間、空席の隣の男が強烈な悪のオーラを放っている。私を震撼させてUターン、又は他の場所へと出来るだけ離れようとします。悪のオーラとは何か、私は『悪しき霊性』と思っています。その高感度センサーは『時』と『場所』『ふとした瞬間』色々な場面で無意識に突如として発動します。
以前、警察沙汰になった思い出があります。
一番最初に入社した生命保険会社での出来事です(24歳の時)。私は事務方で直接的な営業マンではありませんでした。支社の応接室での出来事です、ここはオープン型で近くを通れば、ああ、「生命保険契約の交渉中だな」という風に分かります。先輩のT営業マンが保険の契約で話していました。私はなにげなくそこを通りました。通った瞬間まさにその瞬間その男と目が合いました。
かつて感じたことのないような『恐ろしい悪意』を感じました。二人の距離は2mぐらいでしょうか、高感度センサーが恐怖心で壊れそうになりました。
その男が帰った後すぐTさんに聞きました。
「なんだったの?」と、
「7千万の生命保険の新規契約」だと大変喜んでおりました。
「なにか嫌な感じしませんでした?」
「いいえ、全然」
その後、大変なことになりました、大きなワナが仕掛けられていました。延々と続く理不尽な脅迫です。目的は『お金』の要求です。保険会社にとっての最大の業務妨害です。支社長が交渉にあたりましたが解決できずに、支社長から本社へ連絡。その男は指名手配となり、結局、警察につかまりました。最初の日から半年後、わが支社に警察官が手錠をした犯人を伴って実地検分に来ました。私は6カ月ぶりにその男を見ました。今度は一瞬ではありません。まじまじと見ました。うつむいたままのその男に悪のオーラはありませんでした。ごく平凡な気の弱そうな男でした。
私の霊感は、多くの霊感師が体験する、いわゆる子供のころから霊が見える、公園で妖精や不思議な子供たち(霊)と遊んだ。見えないものが見える過去が見える未来が見える等のお話とは一線を画します。俺流はズバリ「霊性占い」です。私が学んでき来た心理学でいえば、究極の奥義『他心通』『人のこころが読める』です。
現れた、九条英子は編集長らしからぬ、偉ぶったところがまったくない「いい感じ」のひとでした。丸顔でふっくらしています。
「占いの専門家じゃないので、分からない事ばかりですが、よろしくお願いします」
(ええ、ここは占いの専門誌ですよ、いくらなんでも・・・それともご謙遜ですか?)
彼女に対する私の情報量はゼロです。山下さんの私を驚かしてやろうといういたずら心か、後でゆっくり彼女のことは教えてやるからなのか、何も教えないよ~なのか。自分の霊能力で調べてみたら、なのか・・・
一番知りたいのは彼女が編集長に抜擢された理由です。きっと、そのうち分かる時が来るのでしょうが・・・・・
山下さんは、47歳。みずがめ座のA型、ちょうど私より一回り上です。80歳のお母さんが脳梗塞で倒れて一命を取り留めましたが、親一人子一人「お前がいてくれないと、私は死んじゃうよ」苦渋の選択が、会社を辞めて母の介護に専念するということでした。月刊「ミラクル」にすべてを賭けていた男。しかし、彼を引き留める言葉を、私は持ち合わせておりませんでした。編集長のおかげで、ここまで来ることができました。3年という短い間でしたが、未熟な私を占い師として育てていただき、色々な人生を学ばせてもらいました。本当にありがとうございます。
「読ませていただきました、神谷さんの巡礼の旅、実は今回3年分まとめて読ませていただきました。すばらしいです。神谷さんの語り口、軽妙洒脱のお話、ファンが多いのもよく分かります」
「そうなんですよ、彼には相手の占い師を絶対に怒らせない事、これを厳命しました。誹謗中傷と思われたらお終いです。よってランキングはどうでもいい、とにかく裁判沙汰にならないこと。そして、如何に占いに興味を持ってもらうかです」
「読んでいて思わず吹き出してしまいました、神谷さんのお人柄があふれています。あれでは怒りたくとも怒れません」
(あああ、私の最大の悩みはランキングです、人が人を評価する。これは傲慢以外の何物でもありません。だから、自然にああいう洒脱な文章になる、私の「お人柄」ではなく逆鱗に触れて訴えられると怖いからオブラートでつつみ文章でごまかしているだけです)
「九条さんは、神谷君のちょっと上だけど、うまくやっていけそうだね。まったく心配はなさそうだ」山下さんが笑いながら言った。
「どっちみちバレますからはっきり言います。先月で40歳です。いつも若く見られますが」
と微笑んだ。
(ええ、待ってください、九条さんは40歳ですか。ウソでしょ、どうみても20代後半ですよ・・・信じられません。申し訳ないけど『ばばあ』じゃないですか。カルチャーショックじゃなくて『エイジ(年齢)ショック』です。自分より若く見える年上の女。もう立ち直れそうにありません)
「問題は次回だけど、どうしよう。私も母の介護でいいターゲットを見つけられなかったけど、さっそくですが九条編集長、いい人いますか?」
「神谷さんは、どうですか?来たばかりで恐縮ですが、今大評判の銀座の『銀子(ぎんこ)』さん、第二候補が山形市の数霊占いの、「ローズまりー」などはどうでしょう?」
おいおい、新編集長、詳しいじゃないですか「猫を被(かぶ)る」といいますが、これでは雌(め)ヒョウですね。
・・・・・
「銀子(ぎんこ)さん、いいですね。私も、今、最も注目している女(ひと)です。なんといっても神秘的、銀色の仮面を付けた私と同じ『霊感占い師』。ネットの評価は断トツですよね、デビューしてたった6が月でアクセスが多すぎて自ら遮断。どうしちゃたんだと、喧喧がくがくですね。
では、私が、銀子の化けの皮をはがしましょう。私の霊力で強力にインテレ(霊力で心を読む。深層心理、こころの中に無意識の内に入りこみ真実を暴く!)してきます」
「わあ、楽しそう!来月号は、世紀の霊能力対決!また読者が増えそうですね」 「おいおい、待ってくれ、今まで通りだよ。常に冷静に、相手の最大限の敬意を払って、頼みますよ、神谷君、土下座はこりごりだ。裁判沙汰は絶対にダメ!」これが山下さんの退職の最後のメッセージ。
銀子
ネットがすごい、「銀子さん最高!こんなに当たるなんて信じられない!」といった絶賛の声が多数。土日限定の完全予約制。占いは、はっきり言ってそんなに当たるもんではありません。当たるも八卦、当たらぬも八卦、それなのに・・・
銀座のど真ん中、今「銀子」指定のビル3Fの一室の前にいます。
驚きました、銀座の超一等地、そこにりっぱな10畳ぐらいの一室があります。なんと、今回電話を受けた受付嬢がいました。部屋はかなり広い、奥にはきっと彼女がいるのでしょうか。光沢のある黒のカーテンが引いてあります。回りを深く深呼吸してゆっくり見回しました。壁一面が輝く黄色、決して黄金ではありません。
そこに真っ黒な無限大∞のマークが幾何学模様をなして無数に描かれております。何か特別な意味があるのでしょうか?私にはまったく意味不明です。
黒いカーテンを開けました。
そこには、『ダースベーダー』がいた。 強い衝撃が走った!
えっ、今日はカボチャの日(ハロウィン)なのか?
「どうぞおすわりください」
「お名前をお願いします」
「神谷光一です」(本名を名乗った)
暫くの沈黙があった。
彼女?は、銀の仮面(目だけを隠すタイプ)をかぶった女性のはずだ、この漆喰の黒、しかも、この衣装はダースベーダー(SF映画のスターウオーズの悪のヒーロー)とまったく同じ。全身が黒。こんなのは、100人以上あった占い師ではもちろん初めて、人を馬鹿にしているのか、おちょくっているのか、そもそも、このままこの衣装で占いをするというのか?
まったく、調子が狂ってしまった、ありえない!
「今日の、相談はなんですか?」
おいおい、声が違う、これは男の声だ!
違う、声に音声処理を施している、重低音の余韻のある声。驚愕だ!これが神秘的な最新占いの進歩型と言いたいのか。
・・・・・
「恋愛」です。
「分かりました。では、両手の手のひらを開いて、目の前にだしてください」
彼女?は、私の両手の上にそっと自身の両手をかぶせてきました、それは分厚い黒の手袋でした、冷たい感触が微妙に伝わってくる、触れるか、触れないか・・・。
そして、
「恋愛ですか、あなたのこころには、恋愛に関しての強い思いがまったく伝わってきません。ウソはつかないでください、占いはこころの真剣勝負です。こころを解放してください。ウソはこの神聖な場にはまったくふさわしくありません。
この状態で静かに瞑想してください、3分間です」
・・・・・
目をつぶって、瞑想のふりをしました。こころの整理がまったくつきません。体験したことのない流れです、疑惑が渦巻く、この女はいったい何者なんだ。
「では、もう一度聞きます。あなたの質問はなんですか?」
あああ、困った、困った。
私から、見える唯一のものは『銀子』の目です。眼光鋭く威圧するかのようです。目の回りを化粧しております、わざとでしょう。悪魔の化粧のつもりでしょうか。これではまともに目を見つめるのも怖いです。
しかも、彼女の目線は私のより上です、私は身長が180センチ、このダースベーダーは2mあるということか?これも演出ですか?
これでは、お客さんは、特に若い女性は二度と来ないでしょう。恐ろしくて。
「すいません、恋愛の悩みではありません。私は独身主義者です。結婚する予定はありません。でも一生このままでいいのか、将来、多少の不安があります。今は仕事が楽しくて仕方ありません。でも、60歳、70歳になった時、ちょっと不安です・・・」
あああ、まともに言ってしまった。ワナにはまった!
※※※※※
もともとの、この企画は『神谷霊子(れいじ)の霊力巡礼の旅』。もちろん霊子を名乗ることはありません。姓名判断の時は本名「神谷光一」を名乗りますが、他には「鈴木光一」「高橋光一」などを色々と使い分けております。生年月日は正直に言っております。そして、ここが大問題です。私の占い診断の、こちらからの質問はほとんど『恋愛』です。これが一番分かりやすいし、私には押し問答の100回ぐらいのパターン経験がすでに頭に入っております。どんな局面でも、すらすらと大ウソを言っております。持ち時間は1時間前後。経費はすべて会社持ちです。10万円かかったこともあります。とことん質問します、聞きだします。私が納得するまで。
この企画の本質は、その占い師の『真の実力』です。しかし、それだけではありません、いかに『こころ』ある回答をもらえるか、その回答に私が納得できるか満足できるかです。私からの切り口は色々、結論も色々です。
最終的には、①実力(あたるかどうか) ②占いの経験値 ③占いの知識 ④話術、等ですが、実は、私の最終判断は、誠に失礼ながらその占い師の『総合的な人間力』です、そしてその占い師の「霊性(魂)のレベル」が、判断の最終基準です。だからこそ私は『霊感占い師』と名乗っております。そして、A~Eまでの5段階。いままで不採用(雑誌に掲載されないもの)も含めて、Aがゼロ、Bが3割、Cが5割、Dが2割です。Eはいません。
そして、今回は・・・・・
「あなたはまたウソを言っております。独身主義者はウソです。あなたはそれがウソであることを自分自身まったく気付いておりません。本当の独身主義者は開口一番にそのようなは言いません。あなたの深層心理は「愛」を求めております。それを自己否定するため自己防衛するため、人生の同じような場面で、結婚の2文字の追求を逃れるために無意識に言いつづけております。独身はあなたのコンプレックスです。あなたは間もなく40歳になります。その時、あなたは真実の声を自分自身の内面から聞くことになります。深層心理、隠そうとすれば隠そうとするほど真実のこころが見え隠れしています」
おいおい、待ってくれ、それは、私の大学の卒業論文だぜ、『心理学と占い』が「心理学科」の私の卒業論文の表題です。そしてあのK教授から「すばらしい」とお褒めのお言葉をいただいたくらいだ。冗談じゃないよ、どこのどなたか知りませんが、お前ごときに言われたくない!大いなる怒りと、驚嘆、戸惑い、そして「なぜ」という真逆の「尊敬の念」、それらが一色単にやってきた。
「あなたは、今、ゴールデン・コードとつながろうとしています、分かりますか?」
「分かりません、何のことですか?」
「運命の糸が近づいております。私が、今までかつて感じたことがないほどの強さです。強いオーラ、強い糸を感じます?前世からの強い糸です。
あなたは、それを感じていますか?」
「いえ、まったく感じておりません。それって、恋人、愛する人のことですよね」
「もちろんそうです」
「自分では、まったく分からないはずです。1週間以内、1カ月以内です。出会いの方々のなかに、あなたの運命を根本的に変える人がいます。確信をもって申し上げます
今日は、ここまでです。席料はいりません。お金の心配しないでください。必ず、もう一度来てください。出来れば1か月以内に」
受付嬢がやってきた、次の約束をして外を出た。
ああ、どういうことなんだ、こんなことがありうるだろうか、あの恐ろしいまでに自信に満ちた『確信』は何なんだ。
私はまるで夢遊病者のように銀座の夜の街を徘徊した。
ふと、我に返って喫茶に飛び込んだ。そして無意識のうちに九条編集長に電話した。
「銀子さんに会いました、報告したいことがあるのであした月曜日事務所に行きます」と。
そして、旧、編集長、山下さんにも連絡してしまった。
「突然、すみません。今日、銀子さんに会ってきました。まったくの予想外の人でした。お願いがあります。銀子さんの情報をできるだけ知りたいのですが・・」
山下さんは、占い師としての経験は10年ですが、心理学研究の第一人者でもあります。私同様にK教授の薫陶を受けた者同士です。しかも、臨床心理士、FP。心理学に精通し、業界通であり、多くの占い師に慕われ尊敬されております。
ブラックコーヒーを飲みながら、起こったことをもう一度冷静に振り返ってみた、相手を占うどろこではなかった。私からの質問は何一つ言えなかった。すべて彼女のペースだった。ダースベーダーの厚い鉄板に阻まれて、まったくインテレ(霊感で相手の心を読む)出来なかった。というよりインテレする余裕もなかったというべきか。
本当に情けない!こんなことは初めてだ。何より、彼女はすでに私の個人データを全部知っているのではないかという疑念。・・・・・私の両手の上に置かれた彼女の黒い手袋、そこから私の心を読み取っているというのか?
それより、自分のことが気になる、彼女は1カ月以内に私に運命の女が現れると断言した、もし現れなかったらどうするつもりだ。もう1カ月延ばすつもりなのか。それとも逃走、失踪するのか。彼女の評価は、もう、文字通りの世紀の霊能占い師か、とんでもない大ペテン師か、最高のAか、最低のEか。それとも心理学の『奥義』を極めた人なのか?・・・・・
月曜日、麹町三丁目の事務所に赴いた。
ただならぬ気配を感じたのでしょうか、隣の喫茶「ドトール」でと言われた。
私は、開口一番。
「銀子さんの件、5月号にしてもらえませんか。来月号は申し訳ありませんですが、不採用の中から間に合わせます、ご迷惑はかけません。来月の締め切りには間に合わせます」
「えっ、どういうことですか。銀子さんに会えなかったのですか?」
「会いました、なんと、彼女は、ダースベーダーの恰好をしていました。彼女のワナにまんまとハマってしまいました。私の完敗です!!
後で冷静に考えてみました。心理学の『誘導法』です、「大きなショックを与えるような強烈な心理的パンチを与えて、心を動揺させて深層心理に深く入り込む、反発できない状況をいいことに一方的に言葉巧みにじゃべりまくる(マインドコントロール)というやつです」私は、今回、まったくの無防備でした。次回はそうはいきません。大逆襲です。今度はこちらから誘導します。私も「霊能力者」の看板を掲げています。このままおめおめ引き下がれません。
ただし、彼女は私のことを知っていると思います。そのために顔を出せない。それなら、その化けの皮を暴いてやります。
でも、もうひとつの方法も考えています、この方が現実的かも知れません、まんまとそのワナにハマってやろうかと・・・
今、迷っています。
彼女の言うがままに当分その流れにの中にいた方が、いい結果が得られるいいかもしれない。真実の銀子に会えるかも知れません。
実は、銀子は、私に、『1か月以内に運命の女が現れる』と予言しました。それなら、是非その女(ひと)に会いたいですからね!」
「聞いただけで、わくわくしますね。相手も相当の女ですね、天下の神谷さんを翻弄させるんですから、でも、本当にいい女に巡り合えたらいいですね、あら、これじゃ、銀子さんのワナにハマるのかな。でもいいじゃないですか、もし一生の運命の女に会えるなら」
彼女が微笑んだ。この人は、本当にいい人です。
「それと、銀座の一等地にあの事務所。大きなスポンサーがいるのか、あるいは彼女が資産家の令嬢とか、店のディスプレイにも相当お金をかけています。従来の『貧乏占い師』とは大違いです。
あと、大胆な予測ですが、本当は男かもしれません。ニューハーフかもしれません。実は、彼女の声ですが、音声操作をしているんです、あの映画の本人のように、重低音で。編集長、考えられますか?本当のことですよ。なんで、そこまでする必要があるのかよく分かりません、単なる異常なコスプレ(仮装)マニアかもしれません」
「えっ、すごそう、ぞくぞくするわね、私もダースベーダーに占ってもらいたいわ」
「待ってください、決着がつくまでは。銀子さんには、2週間後に会います。また、ご報告します。いい報告ができるといいんですが」
◇ ◇ ◇
今度の日曜日に、上野の居酒屋「上野市場」で、23年ぶりの小学校のクラス会あります。銀子のいう「出会い」とは、このことを予知しているのか、それ以外には女性との出会いの予定はありません。30名参加。女性も、もちろん来ます、誰が来るかは分からない。『卒業写真』を引っ張り出して見た、ユーミンの歌を思い出した。みごとに振られた初恋の富田裕子さん、一番勉強のできた岩間さん、二学期に転校してきたエキゾチックなハーフの工藤さん、どんどん思い出してきた。正直、今回は男はどうでもいいのです。
23年ぶり。みんなきっと結婚しているでしょう。運命の女どころか、がっかりするのかもしれない。みんなが色々な人生を経験してどう変身したか。そして、語り明かそうじゃないか、腹を割って思いのたけを。人生に乾杯しようじゃないか。
時の流れの中で、人はだれとめぐり逢いましたか
時の流れの中で、人はどう変わりましたか
つたない詩が浮かんだ。私は、独身です。まだ、まだ、可能性があります。日曜日が楽しみです。
「神谷さん、私を覚えていますか?」
席を、飛び越えて女がやってきた。
えっ、正直、覚えていません・・・口ごもっていると・・・
「ええ、覚えてないの、隣の席だったのに」
「まさか、山田さん」
「違う!山田さんは、斜め前。私は高木美穂、分かった」
「えっ、整形したんですか」かましてみました。
「ひどい~!美しくなったんです、女になったんです」
おいおい、そんなことまで聞いてないよ。
「独身なんですか?」ダイレクト殺法です。
「別れました、神谷君が冷たかったから、人生を誤りました」
おいおいおい・・・飲みすぎだよ。
「一度、大きな声では言えませんが、神谷さんラブレターもらったことあるのよ」
(それはないでしょ。ラブレターは、今日は来ていませんが、振られた裕子さんに一度出しただけです。何かの間違いです。他の人です!)
「神谷さん、今、何してるんですか?」
「病院で、『心理カウンセラー』をしています」
「難しそうな仕事ですね?なんとかカウンセラーですか?」
(実は、私は占い師のほかに、契約社員として週に3日病院に勤務しています。山下さんの紹介です。生きていくためです、生活のためです。)
彼女は酒豪でした。八海山がどんどんなくなります。
同時に、彼女のことをどんどん思い出してきました。小学校時代はさっぱりした顔立ちの清楚な樋口一葉でした。でも、今はど派手で酒乱の樋口一葉です。過去と現在の記憶の線が一致しません。でもとても楽しい人です。いい人です。相性は悪くないです。
しかし・・・
飲み友達としては最高ですが・・・
結局、彼女は、ずっと隣にいました。
泥酔しました。私は酔っぱらった彼女を一生懸命に介護しました。これが愛というのでしょうか。
三日後、まったく思いがけない人からお誘いがありました。編集部の田辺敦子さん。わが社は、下請けの弱小出版社です。正社員が4名。契約社員が私を含めて4名。彼女は、九条編集長の部下となりますが、私との接点は少ないです。つまりもう一方の目玉「今月の真実」の編集補助です。忘年会、新年会、何度か飲んだことがありますが、おとなしいけれど仕事はテキパキと早くてできる人、確か30歳ぐらいだったと思います。
数年前、忘年会の帰りに10センチぐらいの段差にハマって骨折、救急車に乗って病院に連れて行ったことがありました。入院して、お見舞いに銀座千疋屋(せんびきや)の「マロンプリン」を持っていき、これ大好きなのと、えらく喜んでもらいました。また、業界の忘年会では、私が司会で忙しくて、細々とした雑務のすべてを嫌がらずにやってくれました。
その彼女が、私の目の前で突然こう言いました。
「以前から、ずっとあなたのことが好きでした。今日、思い切って言います!」
えええ、驚きです。飛び上がる程うれしいです。でも、申し訳ないけどまったく気が付きませんでした。霊能力者失格ですね。
でも、だから、どうすればいいのですか?どうしたら、・・・『思い』と『言葉』が交錯(こうさく)する。
私の人生、35年。男としてこんなにうれしい言葉を言われたのは初めてです。一生の間に2、3回しか来ないという『モテ期』に今週から突入したというのでしょうか?
銀子の予言通り、この人が運命の人なのか?
「私、来週、九州の実家に帰ります。帰ってこい、いい人がいるからお見合いをしろと。私は一人っ子で、両親もさびしい思いをしてきたと思います。東京の大学に行かせてもらい、今まで好き勝手なことをさせてもらいました。昨年は、父が入退院を繰り返しました。でも、父のお見舞いには一度も行けませんでした。
まだ、赴任したばかりの九条編集長に、退職の申し出をしました。
でも、どうしても言えなかったこと、どうしても言いたかったこと、神谷さんへの感謝の気持ち。そして、すっと、ずっと、想っていたことを編集長に相談しました。ひとことでいい、神谷さんに思いを伝えてからやめたいと思って、でも、それって、私の身勝手な一方的な思いです。ずっと悩んでいました。
編集長は、はっきりと言いました。
「このまま帰っちゃ絶対にダメ、一生後悔すると思うよ。感謝のことばとあなたの正直な思いを伝えなさい。神谷さんはこころの広い人よ、しかも、すごい占い師。人生相談の達人よ、それだけじゃないわ、熱くて思いやりのある人。自分自身、あなた自身の将来を占ってもらったら、きっと、神谷さんはすばらしい回答をしてくれると思うわ。
でも、結果を期待してはダメよ、彼の占いは魂の占い。真実の占い。あなたにとって今後の人生の最高の『道しるべ』を示してくれると思うわ」
心に決めました。はっきり伝えよう、
あの時、たったひとり、親身になって心配してくれて、自分の終電車のことなど微塵も出さずに救急車に同乗してくれて、しかも何度もお見舞いに来てくれた、ありがたかった、うれしかった。でも何も伝えられなかった。何も言えなかった。時間が日常の邪魔をしてどんどん時だけが経ってしまった。本当にありがとうと伝えたい。
今の気持ちは、もう、ただ、それだけです。これですっきりしました。元気に九州に帰れると思います」
・・・・・
編集長、ほめすぎです。困ります。彼女を目の前にして、これから何をしゃべればいいんですか、どう励せというんですか。
占い師にとって最も難解な占い、それは自分自身の運命を占うことです。『人のことは分かっても自分のことは分からない』医者の不養生と同じです。髪結いの乱れ髪。「陰陽師の身の上知らず」です。そして、その次の難問は『自分と密接なる関係のある人』への占いです。責任重大です。軽い生半可の心で回答してはいけません。私情をはさめば判断を誤ります。
私は、久しぶりに編集長のご期待にそえるように、申し訳ないと思いつつ彼女のこころへ「インテレ」しました。霊的なコンタクトです、彼女のこころを読みました。
(彼女はまじめすぎます。いい加減なアドバイスは危険です。私への思いは相当に強い、彼女の中で私への思いが増幅して必要以上に大きくなり神格化されています。でも、彼女は九州で会えるであろう、未来の人にも相当な期待をしています。私と彼女の関係、それはもはや現世的な男と女の関係を超えて、未来へとつながっていく関係。ずっとずっと続く永遠の関係)
「ありがとう、本当にうれしいです。初めて女性に好きですと言われました。でも、あなたは、もうすでに私たちの未来が分かっているはずです。もう、十分理解しています。過去の『未練』から『新しい世界』へとすでに決断しています。すばらしいことだと思います。でも、あなたの未来の人は、私ではありません。そして、もうすぐそこにいます。間もなく現れます。 私、占い師『神谷霊子』は、ずっとあなたのそばにいます。ずっと見守ります。それが「縁」、永遠の糸というものです。どんなに遠くにいても離れることはありません。悩んだ時、困った時、運命の人と出会えた時、いつでも連絡してください。アドバイスをします。なぜなら、あなたは、私の永遠のソウルメイト、魂の友達だからです」
桜の木の下に
今、桜の木の下にいます。まさに、桜が満開です。
ここは麹町の編集部のそば「千鳥ヶ淵」です。
いつも、思うことがあります。桜はなぜこんなに美しいのでしょうか。葉っぱがまったくありません、花だけです。しかも、花弁(はなびら)をよく見ると白です。でも、遠くから見るとそれは鮮やかな淡いピンクに見えます。美しい花の一方には、まったくふさわしくない、ごつごつとした幹があり、さらには四方に伸びる大蛇のごとき根っこは醜悪にも見えます。
梶井基次郎は「桜の樹の下には」という、短編小説(散文詩)の中で、余りの美しさに『桜の樹の下には屍体(したい)が埋まってゐる』と。
こころと魂。偽りと真実。デカダンス心理。美と醜。生と死。
その美しき桜の仮面の下には、
漆黒の銀子の仮面の下には・・・
「九条編集長、田辺さんに会いました。僕のことほめ過ぎですよ」
「きっと、神谷さんならすばらしい回答をしてくれると、大丈夫だと思いました」
「編集長、今度の日曜日、銀子さんに会います。この一週間は色々ありました。濃密でした。予言はかなり当たっていると思います。しかし、私の中では、まだ、肝心の運命の人は現れていません。まだ、銀子の正体もまったく見えていません。それに、次回には、ランキングを出さないと、これ以上、編集長を待たせるわけにいきません」
「慌てることは、ぜんぜんないわよ、あなたの人生が、かかっているんですもの」
「編集長、いいアイデアありませんか、弱音ははきたくはないが、漆喰の黒い厚い壁がインテレの邪魔をしている」
「仮面を取ってくださいと、お願いしたら」
「えっ、それはビックリ発言です。ああ、そうですかって取ってくれます?」
「そうよね、無理ね、・・・彼女は、もう2か月ネットを更新していない、重大な理由があるはずよ、それに、銀の仮面をダースベーダーに変えた理由も知りたいわ、なにか理由があるはずよ」
「次回には、銀子の正体。それと、なんでよく当たるのか、その真実も解明したいです。今回は、最後には、こちらの身分を明かすつもりです。ウソをつき通すことは、一生懸命に占ってくれる彼女に失礼だと思うし、でも、実はそのことも含めて彼女はすべてを知っているような気もするし。今回は、妥協せず時間がかかってもいい、編集長のご期待に応えられるように」
「でも、私には、もっと知りたいことがあるの?」
・・・・・
「何ですか?」
「神谷さんの、運命の人です」
「えっ」
「それが、今一番知りたいこと」
なぜか、彼女がにっこり微笑んだ。
その瞬間、無意識のうちに、編集長、九条英子に対して、大変失礼なこと、一番してはいけない事。インテレしてしまいました。
白い「もや」がいっせいに取り除かれ、大宇宙の大海原から無限大∞のはるか彼方から、無数の白い糸が入り組みながら、スパイラルにこちらに進んでくるが見えます。
その瞬間、その谷間の奥底の、さらなる奥から、閃光を放ちながら、一直線で光速のごとき速さで、『黄金の糸』が極彩色のオーラに伴われて、私の無意識の眼前に、忽然として現れ出でました。そのあふれんばかりの光輝の中に、その人が立っていました。
そして、そのこころが、はっきりと、見え・・・。
ダースベーダー
目の前に、ダースベーダーがいた。
両手を机の上におきました。銀子が黒い手袋をかぶせてきました。
3分間、瞑想をしてくださいと。
私は、黒い胸板に向かって、最大のインテレを浴びせました。しかし、跳ね返されました。無駄な抵抗のようです。すぐに、心を切り替えて瞑想しました。
「どうでしたか、この2週間で、人生の大きな変化はありましたか、運命の人に会えましたか?」
「いえ、まだ会えていません」
「私は、あなたの瞑想中にあなたの心の中に入り込みました。そして、あなたの心と融合しました。これを「レイテル」といいます。霊のテレポーションです。あなたの心の中のいつわりのない真実を知るためです。あなたはすでに告白を受けています。以前よりさらに強い魂の叫びが聞こえます。運命の人です。ソウルメイト以上です。恐れることはありません、目をつぶって瞑想してください、すべてを思い出してください」
・・・・・
「クラス会がありました。ある女性とずっと飲みながら話をしました。いい人です。でも告白を受けたわけではありません。私はあくまで友達だと思っています」
「その人ではありません」
「あと、会社の同僚から告白を受けました。その人は真剣でした。でも、運命の人ではありません」
「それだけですか」
「・・・・・」
「あなたは、もう言わなくてもすでに分かっています。今、この瞬間に、あなたの脳裏にひらめいた人、そのひとです」
「編集長ですか」
「できたら、名前を言ってもらえませんか」
「九条英子です」
「その人です」
「どうして、分かるんですか。あなたは何者ですか?
いますぐ、その仮面を脱いでください!」
「神谷さん、冷静になってください。一度、大きく深呼吸をしてください。
・・・・・」
「すみません。興奮してしまいました。失礼しました。冷静さを失いました」
私から質問させてもらっていいですか。
「私のことを、すでに知っていたのですか?
実は、私は、ウソをついていました。ある目的のために、あなたに会いに来ました。
そのことを、知っていますか」
「すべて、知っています」
「なぜ、仮面をしているんですか。あなたは、私の知っている人ですか?」
・・・・・
「あなたは、山下さんですか?」
「それは、いえません」
「では、正体は明かせないと」
「違います、あなたは、もうすぐ私のすべてを知ることになります。急ぐことはありません。この仮面も、もうすぐ脱ぎます。すべての疑問が、嵐の後のように晴れわたり解けます。あなたのこころは解放されて、一点の曇りのない世界に導かれます。心配はいりません。疑念も、懐疑心も、恐怖心も、霧散します。宇宙的な愛に導かれていきます。強い霊感を持ったあなたは他の誰よりもそのことを理解できます」
「あなたは、なぜ、私の為にこれほどまでに必死に占っているのですか?」
「それは、すべて運命の人の為です」
「巡り合う運命を信じてください。運命を超えた絶対的な必然です。
変えようがありません、かけがえのないものです」
「どうすればいいと・・」
「あなたの、次の行動は、あなたがもう知っています。
あなたは私。私はあなたです。 ツインソウル(双子の魂、前世からの運命のひと)です」
運命の人
ここは本当に落ち着けます。東京の丸の内『パレスホテル東京』、6Fのラウンジバー『プリヴェ』にいます。珍しく音楽が流れています。ベネーの交響曲「Reunion(再会)」です。
銀子さんには、もうランキングは必要ありません。
すばらしい魂の霊感師です。本当に心から感謝しています。
決して、ワナではありません。私の魂を蘇らせ、覚醒させるためです。
忘却の彼方にあったものを、すべてを思い出させ気づかせてくれました。
眠そうな退屈な人生に、大きな輝く希望の光をくれました。
今から、編集長がきます。
胸が、高鳴ります。
運命の鼓動が、刻一刻と近づいています。
現れた編集長は、いつもの「ブルーのシャツブラウスにパンツ」ではありませんでした。
なんと、黄色のワンピースです。なぜか颯爽としていました。
にこにこしながら、席につきました。
私は、大きく深呼吸をしました。
そして、決断しました。
・・・
「結婚してください!」
はっきりと、力強く言いました。
彼女の心の中に、大きな喜びがあふれ出るのを感じました。
「本当にうれしいです。お受けします」
・・・・・
その時、私の携帯が鳴りました。
声が、筒抜けです。
「山下ですが、銀子さんの正体が分かりました。銀座の資産家の娘さんです。私と同じ心理学のゼミのOBです。そして、その正体ですが・・・」
私は、携帯を切りました。
九条さんは、持ってきた手提げから、あるものを机の上に置きました。
ダースベーダーの手袋でした。
「もう、これ必要ないわね」
にっこりと微笑みかけてきました。
そして、私は、彼女に、右手でVサインを送りました。
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