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夏のセミ(ピンコロ地蔵)

ぴんころ地蔵 小説
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黄輝光一
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告白~よみがえれ魂~に掲載したエッセイ風小説です。

(コールサック社)

真夏の信州の佐久市のお寺で突然死の友人の葬儀がおこなわれた。

享年65才さぞかし無念だっただろう。年齢的に見れば早死の範疇に入るのだろうが、一番の無念は年金をもらわずに死ぬことだ。などと、かってにおもんばかる次第であるが、年金は最低10年間もらわないと元が取れないということ。独身で早死の方はもらえたはずだった年金は相互扶助で他に回される。死して名を残すではないが、死してお国へ返納して最後のご奉公ということでしょか。

友人はあっけない死に方でした。朝起きたら死んでいた、心筋梗塞だから苦しまずに死んだ、ピンコロだったからよかった、と言うけど、それでいいのでしょうか?妻も、子も、両親もいないので、数人の親せきと私たち数名の親友がいただけでした。一周忌はやる予定なしとのこと。ちょっと考えさせられます。

夏のセミたちが佐久平の盆地の大空に向かって、楽しげにミンミンと大合唱!何も知らない子供の頃は生きている喜びがひしひしと伝わってきたものだが、セミの短い一生を知った今は、死にゆく魂の最後の断末魔に聞こえてくる。

いつのまにか明日は我が身。気が付いたら総理大臣が年下。えらく年をとったものである。

だが、一方では地元の老人会では80代がゴロゴロいて、65才はヒヨッコ肩身が狭い。後期高齢者(75才)でやっとスタートラインとはどういうことでしょう。

65才、お若いですね、若くていいですね、などと言われる始末。電車のシルバーシートは規定では65才は有資格者だが堂々と座ってはいられません。上には上がいるからです。私は65才できっぱり仕事を辞めたのですが、政府の方針は「死ぬまで働け」困りました。

いったい、いつ休んだらいいのでしょうか?ひとりで、老人『いこいの家』で、のんびりぼう~としていると『仕事しないんですか』とたしなめられました。

佐久平で、葬儀で一緒の同級生の彼が、電車が来るまでお茶しませんかとのこと、快諾する。

野沢菜付きのお茶をすすりながら時刻表を見ていると

「もし、時間があるのでしたら、ちょっと寄り道しませんか」

確かに、まだ2時です。

「どこへですか?」

「ぴんぴんころりの『ぴんころ地蔵尊』です」

「えっ、確かに、この長野県にあるとは聞いていたが、ぴんころ?」

「小海線で、中込駅ですから近いですよ」

「確かに、近いが」

しかし、問題はその点ではない。

いくらなんでも、友人の葬儀の帰りに、縁起でもない。

しかも、まだまだ若い65才です。

「ピンピンコロリは、まだ早すぎますよ」

「今すぐ、死のうというわけじゃないですよ、ずっと先のことですよ、早めにお願いしておこうと。

実は、昨年母が88才で亡くなったのですが、入退院を繰り返し、痛みがひどくて最後の最後まで苦しみました。管(くだ)人間、人間スパゲッティですよ。見ていて辛かった、胃瘻(いろう)はやりませんでしたが、最後は誤嚥性(ごえんせい)肺炎で・・・その間は、ずっと癌の痛みとの戦いでした。

これで、生きているといえるのか?俺はこんな死に方は絶対にしたくない。痛みなしでポックリ死にたい!人間の尊厳さえも失われた状態で死にたくない」

・・・・・

「いっしょに、ぴんころ地蔵行きましょうよ、ひとりじゃあ・・・」

おいおい、道連れかよ、一緒に死にたくはないよ。

しかし、断る勇気もなく、

「わかりました・・・」

気持ちよくではありません、「いやいや」の承諾です。

その考えには、まったく承服しかねます。

いままでの、いつも弱気な、おとなしい?私とは、思えないかもしれないですが・・・

人間の尊厳を持ち出すなら、ピンコロ願望は、尊厳死願望と同じです。人間の尊厳とは真逆です。

「ピンピンコロリ」は『突然死』です。

まったく、心の準備もなく、完璧なる「死に支度」もなく、

ある日、突然に死んで行く、大粒の涙を流す悲しむ人もいるはずです。

ピンコロ願望は、まったく身勝手な自分勝手な願望です。自己中です。ありえないことです。私は長生きをする為に、苦しみを増すだけの「延命治療」は拒否したいです(意識があれば)、人間は『最後まで一生懸命、生きる、生き抜くことが全てです』しかし、人間はいつかは死にます、生命の炎(ほのお)が少しずつ消え入るように徐々に痛みもなく自然に消えていく、「自然死」こそが神の摂理にあった死に方ではないかと思います。

とはいうものの、全国から、多くのお年寄りが、「ぴんころ、ぴんころ」、とつぶやきながら、ありがたいお地蔵様を目指して押し寄せてきます。

長野県は、有数の長寿県です。私の郷里です。佐久は日本一にもなったほどです。

寒暖差が大きく冬の寒さは特別です「今日は、しみるね~」、八ヶ岳に、浅間山、中心部を流れる清流、千曲川には、アユやハヤなど、養殖の佐久鯉は特に有名です。たくさんの効用ある温泉もありますし、長寿の条件がすべて揃っております。

赤い大きな鳥居をくぐって正門につきました、思ったよりはるかにりっぱです。

早速、お参り。

彼はおそらく、「ピンコロで、よろしくお願いいたします」と、

私は、「ピンコロは絶対に嫌です、健康長寿でお願いします」

通りかかった、30才ぐらいの僧侶に聞きました。

「ピンコロって、なんですか?」

「大往生です」

「早死に祈願ではないのですか?」

「とんでも、ございません、誤解されている方が多くて困ります」あくまで長寿です。

『健康で長生きし、(ぴんぴん)寝込まずに、楽に大往生(ころり)したい』という心から願いの成就です。

ええ、だいぶ話が違います。

大きなお地蔵さまは、頭を少し傾けてにっこりとおだやかな、かわいいお顔で微笑んでおります。暗さなどみじんもありません、悲壮感ゼロです。境内は楽しく和やかに見えるから不思議です。

でも、私は、それなら、紛らわしいので『ぴんころ』の『ころ』はいらない、『ぴんぴん地蔵尊』の方が、いいのではないかと思った次第です。

お寺は、まさに、商売上手。

『命』をグッズにかえて、大もうけ。違和感を感じますが、そんなことをいう方がおかしいよ、と言われる時代です。

参道には、多くの出店や「山門茶寮」のグッズ売り場、みやげ屋「魚甲(うおこう)」など、ぴんころグッズがいっぱいです。

もう、すごいですね。

お守りは、当たり前ですが、その他に、地蔵人形、地蔵まんじゅう、最中、長寿そば、お味噌に、あめに、クッキー、ぴんころ時計に、ぴんころ手ぬぐい、キーホルダーに、根付け(ねつけ)、ボールペン、耳かきに、長寿杖、すべて、ぴんころグッズでございます。

なんといっても、極めつけはお地蔵様のありがたいCD、イメージソング『あなたの笑顔がとどくまで』(一枚800円)

それで、思いつきました。

家に帰ったら、「ぴんころTシャツ」を着て、おつまみに、「佐久鯉の昆布巻き」を食べながら、いやしのお地蔵CD『あなたの笑顔がとどくまで』を流しながら、「ぴんころ焼酎」をグビグビやる。

うまい!

どんどん、高揚感が高まり『生きる喜び』がふつふつと心の底から湧きあがり、 感極まって、声高らかに、

「ピンコロ最高」と叫ぶ!

ぴんころ地蔵は通算で二度行きました。故郷の実家、長野県佐久市の中込駅が最寄り駅です。

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